浮 上 以 前 5

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            うちんちは、もう秋の気配。


もともと、それほど裕福な家庭に育ったわけではない。
半官半民のサラーリーマン家庭で、転勤を繰り返しながら長じるまで官舎に住んでいた。

「ハラは立っても、柱一本立たない」というのが
母の得意な言いまわしだった。
「朝洗って、夜着る」というのもあったなぁ。

母自身は、戦時中でも飴職人が家にやってきて、
おやつを作ってくれるような生活をしてきた人だったらしい。

8人兄弟の末子で、そのうち伯母の3人は北海道内に住まいし、
頻繁な付き合いを続けていた。

伯母たちは、成功した商売人として裕福な暮らしをしていた。
私の母だけが、ただのサラリーマンに嫁いだわけで、
母にしてみるとそれはいささか我慢ならないことのようだった。

で、自分の子どもの教育に異様な情熱を注ぎ、
3歳にもならない幼い長男を指して、
「この子は東大に行かせるから」と伯母達に宣言するのだった。

北海道から東大に進学できる人などは、ほんの一握りだった当時、
臆面もなく断言する母を、伯母達は呆れながら適当にあしらっていた。

兄に対する期待は異常なまでに大きかったが、
私に対しては、この子は女の子だから・・・と、さほどの締め付けはなかった。
それでも、3歳を過ぎると音楽教室に通わせ始め、
普通のサラリーマン家庭ではまだ珍しかったピアノも買い与えられた。

小学校高学年の私と、中学生の兄は、
日本で最初に心臓移植を行った札幌医大の教授夫人のサロンで、
英語を習うようになった。

私の拙いピアノは、今でも札幌の音大では重鎮として有名な先生(元ピアニスト)が
レッスンをつけて下さっていた。
ピアニストを目指し、コンクールの上位入賞を狙うようなお弟子さん達の中にあって、
あまりマジメに練習もしないで通っているのは私くらいだったはずだ。

母はとにかくあらゆる人脈を伝って、良い教育を受けさせることに心血を注いでいたのだった。
裕福では決してなかったから、その教育費を捻出するために苦労していたのではないかとは、
今になって思うことで、当時はありがたくもあり、鬱陶しくもあった。

つまり、裕福ではないけれどもまぁまぁ贅沢な教育環境を用意してもらっていたということだ。
料理を教えていた母は、食べるものにも経費を惜しまず、
贅沢な食材が食卓に載ることも頻回にあったと思う。

暮らしに困る・・・という切迫感は感じないで生きて来られたというのが、正直な思いだ。

16歳のお正月には、わざわざ日本髪を結える美容師さんを探して
腰まで伸ばしていた髪を桃割れに結い上げ、
箱枕でお正月を過ごしたこともあったっけ。
鬢付け油の匂いと、結い上げる時の美容師さんの手つきを
今でもはっきり思い起こすことができる。鬢に油を塗り込む時の痛みさえも・・・。

高校時代の同級生である先達の家族にも可愛がられ、
まわりから祝福されての恋愛結婚は、先達の父が持っていた家でスタートした。
家賃のいらない新婚生活を過ごし、仕事に就いたばかりのお給料でも
つつましくも楽しい生活を過ごすことができた。ありがたいことだ。

やや古いとはいえ、三角屋根の一軒家で
先代おきたとともに、楽しく平穏に過ごしていたのだけれど、

私の父が、一人暮らしだったことや幸いにも家を建てる土地があったので、
父と一緒に住める家を建てることになった。
半ば私のワガママを押し通した感が強いのだけれど・・・・
先達のご両親・・・つまり義父や義母には複雑な思いがあっただろう。
大切な長男が、嫁の親と同居することになるのだから・・・・

しかし、先達のご両親つまり義父母は、「それは、良いことだね」と
暖かいことばをかけて下さり、父との同居を許してくれたのだった。
いつもいつも、優しく可愛がってくれる義父母には
どれほど感謝してもし足りないくらいだ。

義母にしてみると、相当辛いことではなかったかと、
その後子どもを持つようになってから、思い至ったが、
当時は、自分の思い通りに事が進んでいくことにただただ有頂天になっていた。

まことに身勝手極まりないヤツなワタシ。呆れるね。

ま、そんなわけで憧れの新築の家に住み、
転居した翌年には、あきらめかけていたムスメにも恵まれ、
幸せな暮らしを満喫していたと言えるのだった。

もちろん、さまざまな波風は普通に立ったり収まったりはしてはいたが、
おおまかにいえば、幸せに子どもを育て、
破綻の少ない生活を過ごすことができていた。

精神的にも。経済的にも。
                                     (つづく)



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by urankkkao-ji | 2008-10-09 10:58 | 病気の話  

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